補綴専門医とは、歯科先進国アメリカで認められた かみ合わせ・審美・インプラントなど総合治療のスペシャリスト

Specialist for Esthetics and Implantology

米国の歯科は日本の歯科と異なり、一般歯科医とそれぞれの分野の(補綴、小児、矯正、口腔外科、歯周、歯内、口腔顔面疼痛等)専門医が存在する。この専門医になるには歯科大学卒業後、歯科大学院専門医課程(Postgraduate Program)を2年以上かけて卒業する必要がある。

入学を許可されるには、筆記試験、面接、外国人の場合は英語の試験(TOEFL)をクリアしなければならず、いずれの科も倍率10倍以上の非常に狭き門となっている。

 

補綴科レジデントは、歯科大学卒業後、3年の大学院の期間、補綴学に関わる臨床とラボワーク、レクチャー、そして歯学部生への教育を通じ、専門医になるための臨床トレーニングを集中的に受ける。

この大学院課程(レジデンシープログラム)を卒業すると補綴専門医となり、他科の治療は行なわず、自身の専門分野でのみ治療や研究、教育を行うことになる。

NYU歯科病院にて

専門医になるための道のりは非常に険しく、果てしない道のりであることは間違いない。

しかし、アメリカでは歯科医はなりたい職業のNo.1として、毎年ランキングされている人気職業であり、そのため高収入と高い社会的地位が認められている。

そのため、世界中から優秀な歯科医師が、アメリカの歯科医師資格、専門医資格を得るために、母国での安定した地位やキャリアを捨て、まさに人生をかけて合格を目指す。

米国の歯科専門医資格はその価値が、世界中の歯科医師に認められているのだ。

ニューヨーク大学補綴科大学院の修了書

 

 

 

 

 

 

ただし、私は日本の歯学部を卒業した歯科医師である。したがって、アメリカの歯科医療の良い点を取り入れつつも、日本人の考え方、歯を自分の体の一部として非常に大切にする気持ちに寄り添った歯科医師でありたいと考えている。

このケースは、2016年12月が初診の50代男性。

全体的に重度の」歯周病で特に下顎の骨吸収が顕著である。

 

この方は、ごく普通の日本人の感覚を持っていた。ご希望は、できるだけ自分の歯を残したい、費用もある程度は仕方ないが、長持ちする方がいい。

入れ歯は少し抵抗があるので、インプラントにしたい。ただし遠方から来ているので、治療期間は短い、少ない方がいいということであった。

貴方なら、どうして欲しいだろうか?

この患者様は外科、インプラントの埋入や抜歯を何回もするのは痛いから嫌だ。できれば、一回で済ませて欲しい。費用もできれば安いほどいいというご希望を強く要望された。

インプラントをご希望ということなので、それを踏まえると、あとはいかに治療期間を短縮できるか、外科の回数を少なくできるか、治療費をできるだけ抑えるにはどうすればいいかを元に治療計画を検討していく。

もし治療期間を短縮するなら、全部抜歯し同時にインプラントを埋入するはずだ。

治療費を抑える、外科の回数を一度に済ますためにも、やはり全部抜歯すると同時にインプラントを埋入する方が良い。

しかし、この状態からいきなり全部抜歯してインプラントにするというのも、普通の日本人の感覚からすると、抵抗があるのではないだろうか。

アメリカ人はというと、やはりもっと合理的で、やり直しのリスク、治療費、予後、外科のしやすさなどを考慮する人が多いだろう。

彼らの大多数が、上顎もこの状態なら予算が許せば、全て抜歯して同じように抜歯と同時にインプラントを選択するかもしれない。

結局この方は、多少治療期間が長くなったものの、抜歯即時インプラント埋入は選択せず、下顎は両側の奥歯だけインプラントにし、

ある程度治癒を待ち、仮歯をセットする段階で、前歯を抜歯し仮歯を両側のインプラントを連結する形でブリッジにした。

印象用のコーピングをインプラント体の上にセットし、Verification jigで固定しシリコン印象材で型取りを行った。

仮歯は、前歯を抜歯し、左右にあるインプラントを連結した状態で作成する。

そして前歯の抜歯と同時に仮歯をセットした。こうすることで、残存歯によって噛み合わせの高さや正しい顎位を維持することができ、

患者様は、前歯を抜歯しても、その日にインプラントで連結されたブリッジの仮歯がセットできるので、歯がない状態を避けることができる。

ここからは、具対的な補綴物の作成の方法、プロセスなので歯科医師向けのやや専門的な話になる。

固定性のブリッジと言っても、基本は総義歯の作成に準ずる。咬合採得の後人工歯排列をし、その排列されたワックスで試しに作製した義歯を固定性に作り替える。

この下の写真のように、チタンベース(universal base)の上に固定性ブリッジように形態修正したロー義歯をセットし、高さ、審美性、噛み合わせなどをチェックする。

こうして作成した2つ目の仮歯がこちら。右下の仮歯の歯冠部が少し欠けているが、それ以外は問題ないようだ。
側方のガイドは、犬歯誘導に設定した。
最終的にセットしたインプラントブリッジがこちら。
ブリッジは審美性を重視し、前歯の部分のみポーセレンを盛っている。
最終的にセットしたのがこちら。
治療期間は約三年間、費用は総額で440万円であった。
上顎は、費用の問題があり、手をつけずこのままメンテナンス、歯周治療を継続し、症状がでたら抜歯して治療を開始することになった。
2020年、1年後のレントゲン写真。
2年後のレントゲン写真、口腔内写真がこちら。
上顎の奥歯はかなり骨吸収が進み、歯根露出も見られるが、出血、排膿など特に症状もなく状態は安定している。
下顎も同様、インプラント周囲に出血、排膿、骨吸収などは見られない。
プラークコントロールも良好だ。
インプラントに起こりえるリスクとしては、セラミックのチッピングや破折、インプラント周囲の炎症、ネジの緩み、破折などが考えられる。
今後も注意深い観察と定期的なメンテナンスを続けている予定である。
もし下のインプラントが動揺、炎症などにより脱離してくる場合はオーバーデンチャーなど、入れ歯に移行していくのが自然であろう。
上も奥歯はいつダメになっておおかしくないが、いつ、どこまで、どんな介入をするのか、その時に備える必要がある。
平均寿命からすると、あと30年ほど。
最後はインプラントオーバーデンチャーになる可能性が高いが、入れ歯作りには補綴専門医の真価が発揮されると言える。
しかし、治療介入するその日をできるだけ遅らせることが、補綴専門医の腕の見せどころと言えるかもしれない。