補綴専門医と一般歯科医の違いとは何だろうか?

What is Prosthodontist?​

世界中から集まった補綴科レジデント達と。ニューヨークで開催された補綴学会にて。

 

 

 

 

 

Dentistry、すなわち、歯科医学はサイエンスであり、芸術(技術)である。とよく言われている。

日本ではカスタムメイド、オーダーメイドを特徴にしている歯科医院は数多いが、実のところ入れ歯や被せ物を仮歯や人工歯を排列の段階から作り込んでいる歯科医は数少ないのが実情だろう。一方、アメリカの補綴専門医は、補綴科大学院、レジデントの時に、こうしたトレーニングを徹底的に受ける。

こちらは私自身が留学時代に実際ワックスアップした模型

インプラントのブリッジの仮歯を作製している

このような歯科医としての醍醐味を味わえる人工歯の排列やワックスアップ、仮歯の作成や調整、そのプロセスにこそ、歯科医の能力、他に真似できない真の実力、「腕」が問われると言える。

例えばこうした総義歯作成時の人工歯排列。ワックスの上にこうして人工歯を排列し、重合して完成させる。

こちらも私自身が人工歯を排列し入れ歯の模型。

補綴専門医は一本一本自分自身で歯を並べていく。

顔貌、口唇、歯茎、歯と歯、それぞれ全ての審美的なバランスを考えながら、同時に発音、噛み合わせなど全て自身で作り上げていく。

我々補綴専門医は、自分の中で治療の最終ゴール、歯並びの最終的なイメージを持っている。

日本では残念ながら歯科技工士にすべてお任せだ。というよりも、保険診療の制約があり、人工歯排列すらままならないというのが現状だ。

当然、クラウンやブリッジ、オールセラミックスなども、患者さんの顔貌や口唇とのバランスを考慮しながら行う。

手作業で一本一本人工歯を並べたり、素焼きのポーセレンを削り込んだり、盛り足しながら仕上げていく。

こうして緻密にしあげていく。たいがいは完成してセットしたら、「まるで自分の歯のようだ!」と患者さんには喜んでいただける。

専門医と一般歯科医の違い、その決定的な違いは、「技術」と言い切ってもいい

米国の専門医は、それだけの教育、トレーニングを積み鍛え上げられている。

この方は、上下全ての治療が必要な80代の女性。

 

 

 

 

 

 

 

 

上顎は総義歯、下顎はオーバーデンチャーで、インプラントを2本埋入し、その上に義歯をセットしてある。

インプラントで維持しているので、下顎の入れ歯は外れない構造になっている。

こういった咬み合わせの高さを変更するような難しいケースの場合、米国では一般歯科医は治療せず、紹介状を書いて補綴専門医に紹介する。

そもそも一般歯科医は、高度な専門医教育を受けていないし、自分でできないことには手を出さない。訴訟のリスクもあるからだろう。

米国では、噛み合わせの高さや上下の位置関係の変更が必要であったり、歯周病や根の治療、インプラントや入れ歯などの治療手順が複雑に絡み合ったケースはもちろん、一本の被せ物、クラウンでも、補綴専門医に治療を受けたいという方が一定数以上必ず存在する。

私が学んだニューヨークという土地柄も、もちろんあるだろう。

専門医と一般歯科医とは思考の深さと技術をベースとした治療法の選択肢、手数が違うということもあるが、

それ以上に、アメリカでは専門医と一般歯科医の育成システムや役割の違いなどが社会的に広く認められていることの方が大きいのかもしれない。