AAFP annual meeting in Chicago 2015. Poster presentation done. Thank you for your support, Dr. Gelbman!
金、土曜日の日程で、シカゴで行われたアメリカ固定性補綴学会(American Academy of Fixed Prosthodontics: AAFP、インレー、クラウン等の被せもの関する学会)に参加した。
昨年7月のアメリカ歯周病学会、アメリカ歯周病学会とのJoint Meeting、9月のProsthodontics Review Courseに続いてこの1年間で3回目のシカゴ入り。
真夏の素晴しさが嘘のように真冬のシカゴは冷凍庫の中にいるよう。
今年は特に寒さが厳しく、もう3月だというのに最低気温はこの通り。
ニューヨークよりもさらに寒く、よくこんな所に人間が住めるものだと思ってしまう。
街を行き交う人々も余計なエネルギーを消耗しないようにしているせいか、皆無言で肩をすぼめながら通り過ぎていく姿がどこか痛々しい。
さて今回のAAFP、連日の睡眠不足の中、朝6時のフライト。
そのせいもあったのか疲労困憊で正直あまり前向きな気持ちではなく、内容にもそれほど期待してもせず。。
ところがアメリカ補綴学会と違って小規模な学会だったということもあり、予想以上に学びの多い学会となった。
言うまでもなく、現在アメリカの歯科の世界には、デジタル化の波が押し寄せてきている。
特に最近は所謂CAD/CAM systemというものが盛んに研究開発され、補綴専門医の中でも関心は高く、一般歯科医の間ではすでに非常にポピュラーなものとなっている。
CAD/CAM systemとは一言でいうと、コンピューター制御により歯の型をスキャニングし、そのデータをもとにミリングマシンによって、自動的に被せもの(クラウン、インレー等)を削りだす器械、システム。
メリットとしては、
被せものを作るために、歯の型採りを繰り返す必要がない
型を取るときに型の変形が起こらない
かみ合せの型採りの必要がない
印象材等の材料代がかからず経済的
精密な仮歯が作成可能
コンピューター上でワックスアップによる診断が簡単に出来る
被せものはオールセラミック性なので審美性に優れる
歯を削ってその場でスキャニングするので、削った日に歯が完成する
歯を削ってすぐにかぶせものをセット出来るので、削った歯が感染する心配がない
スキャニングから被せものの完成まで所用時間は1〜2時間程度
などが挙げられる。これが「ワンデートリートメント、ワンデークラウン」と言われる所以だ。
ただし、デメリットも。それは、
手作業で作る被せものに比較すると強度に劣る場合がある
手作業で作る被せものよりも審美的な配慮や応用が効きにくい
ジルコニアを除けば強度にやや難があるので、歯ぎしりの患者には不適
20年以上の長期経過、生存率等のデータがない
CAD/CAM器械自体が非常に高額
スキャニングなどの精度の問題で、被せものと歯のフィットはどうしても手作業、金属には劣る
スキャニングマシンでスキャンするため、歯を大きめに削りだす必要がある
等である。
つまりは今のところ用途は限定されるが、
最近は被せものに使用できる材質も、強度、審美性ともに改良が進んでいる。
ケースを選べば時間的にも経済的にも非常に優れたシステムであると言えるわけだ。
特に歯の形成から型採り、フェイスボー、咬合器への付着に至るステップ毎の緻密な行程が省略出来る。
手作りの被せものより、出来上がりまでが早い、
さらに被せのものが完成するまで、削った歯の感染を心配しなくてよい。
これは、特に忙しい日本のビジネスマン等にとっては何とも魅力的に映るに違いない。
こうした新しい器械やテクニックをアメリカではどういう形で臨床に取り入れていくのだろうか。
一般開業医は日本と大差はなく、販売する業者の言う通りマニュアル通りに導入していくしかない。
だがアメリカの専門医養成機関では、
どこのプログラムでも重鎮のファカルティが睨みをきかせていて、プログラムの教育内容が簡単に流行りに流れるようなことはない
と断言できる。
彼らの中には、こうしたツールは、
ワックスアップ、
人工歯の排列等の基本的な手技、
咬合理論そのものに対する深い理解、
セラミック等の材料学
に精通してこそ始めて価値のあるものになる、
という考えが根底にある。
今回学会でのひとコマ。
ノースキャロライナ大学、イリノイ大学、ミシガン大学、ミネソタ大学等の補綴科レジデント達と意見交換。
審美やセラミックについてディスカッションするまたとない機会。
その内容はほぼ予想通り。
誰と話をしても、
診断の根拠が明確で、治療のコンセプトも本質から外れることがない。
さすがに皆よく鍛えられているという印象を受けた。
新しいシステムや材料については導入する前に、
必ず根拠になっている論文を検索し、
絶えずディスカッションを通じて思考を深め、
大局観を持ち、客観的に分析する作業が必ず入る。
そこが専門医と一般歯科医との大きな違いだ。
そのプロセスに時間をかけず、数だけをこなすようなことがあれば、
補綴専門医としての存在価値は、あっという間になくなってしまうだろう。
そしてこれは毎回感じること。
展示会でのドイツをはじめヨーロッパの企業のもの作りの精度、その際立った存在感。
ドイツ製全調節性咬合器の重厚感、動きのシャープさ、安定感に目をみはる。
残念ながら、日本で今後開業するクリニックでは、綺麗な内装も、個室の診療室も作れそうにない。
ただし、診療のクオリティに直接関わる器材や材料には費用や手間ひまを惜しまないつもりでいる。
患者さんへの診査診断や治療説明等、コンサルテーションの際は、
こうした咬合器を使いながら、
奇跡的なバランスの上に成り立つヒトの顎運動のメカニズム等についても、分かりやすく説明したい。
将来私のクリニックでは、各ステップ毎に行われる診査診断や治療の一つ一つが、
どういう意図やコンセプトに従ってなされているのか、きちんとお伝えしていくつもりだ。
そこまで深く勉強は出来ない、日本とアメリカでは社会保障のシステムが違うから難しい。
と言ってしまえばそれまでである。
日本発で、新しい何かを世界に向けて発信していく、と大げさにいうつもりはない。
世界基準の歯科医療を日本で実現する、そのパッションはそれであっていい。
しかしまずは、
一つ一つの診査診断を的確に行う。
手技を正確に、分かり易く治療内容を説明する。
現時点ではそういったシンプルなことを、毎日積み重ねていくことしか考えていない。
テキサスにあるベイラーカレッジ補綴科科レジデントの友人Dr. Viet Hoと |